日本文学100年の名作 第10巻

日本文学100年の名作最終巻。といってもいちばん新しい作品でも今から12年以上前のものになる。2004年から2013年は平成16年から平成25年という平成真っ只中、日本経済長期低迷期の時代。

ざっと振り返ると、2004年スマトラ沖大地震発生。2005年建造物耐震強度偽装事件発覚、愛知博覧会開催。2006年ライブドア事件、WBC日本初代世界一に。2007年防衛庁が防衛省に移行、「消えた年金」問題発生。2008年リーマンショック、日本人3人がノーベル賞受賞。2009年民主党政権誕生。裁判員制度開始。2010年日本航空破綻。はやぶさ帰還。2011年東日本大震災発生。女子サッカーW杯初優勝。2012年復興庁発足。東京スカイツリー完成。2013年インターネット等を利用する選挙運動解禁、富士山世界遺産に登録。(高橋書店年齢早見表の主な出来事参照)。

純文学っぽいのからエンターテイメント系まで多様な作品が楽しめる。

2004『バタフライ和文タイプ事務所』小川洋子

2004『アンボス・ムンドス』桐野夏生

2005『風来温泉』吉田修一

2005『朝顔』伊集院静

2006『かたつむり注意報』恩田陸

2006『冬の一等星』三浦しをん

2007『くまちゃん』角田光代

2007『宵山姉妹』森見登美彦

2008『てのひら』木内昇

2008『春の蝶』道尾秀介

2009『海へ』桜木紫乃

2009『トモスイ』高樹のぶ子

2009『〆』山白朝子

2009『仁志野町の泥棒』辻村深月

2013『ルックスライク』伊坂幸太郎

2013『神と増田喜十郎』絲山秋子

本作品は「新潮」2013(平成25)年三月号に掲載とある。

10巻のラストだったこともあるが、印象深い。女装趣味の増田喜十郎の描写がいい。独身で老いた両親をみとり、淡々と生きる姿が清々しい。

高校の同級生大塚貴史が故郷の市長になり、増田はその手伝いをするようになる。貴史が呆気なく亡くなったあとも増田はその妻の田鶴子さんの運転手を続けていた。貴史の七回忌の法要の帰り、「ねえマスダ、今度女同士で遊びに行きましょうよ」と温泉旅行に誘われる。女装趣味を見抜かれた増田はぎょっとする。お婆さん同士、ふたりのなんということもない温泉旅行が何とも味わい深い。旅行のあと、こんなことは最初で最後だろうと増田は思う。

貴史に一度だけ求められ、増田は「ぼくは他人に影響を与えたくない」と自分の意見を言ったことがあった。とにかくあらがわず、すべてを受け入れ淡々と生きる増田の姿に力強さを感じる。

合間に神が出てくる。人々を観察し、嘆いたりするだけでとくに何をするわけでもない。どうしてわざわざなんのために神が登場するのか。

神は苦しんでいるひととともにある。しかし誰も助けない。誰も救わない。

絲山秋子は2006(平成18)年『沖で待つ』で芥川賞を受賞。【芥川賞ぜんぶ読む】によると、友達でも家族でもない親しい同僚の関係を描いた作品。「読んでいると、心が豊かになってくるだろう」とある。

特別派手なできごとや展開がなくても、心にしみる作品。

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