クリスティ自身お気に入りの作品

『終わりなき夜に生まれつく』というタイトルが何とも印象的。ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』という詩のことば。

いきなりネタバレして恐縮なんですが、いわゆる犯人の独白スタイルは『アクロイド殺し』を思わせる。しかし、1925年発表のアクロイドと1967年発表の本作品とではまったくおもむきが違う。アクロイドのジェームス・シェパード医師の淡々とした感じと異なり、終わりなき夜のマイケル・ロジャーズは錯乱している。その描写は文学的でもの哀しく、単純に推理を楽しませない余韻を残す作品。

クリスティは、メアリ・ウェストマコット名義で恋愛小説も発表している。ミステリだけじゃないという自負が感じられる。

人間の欲と生い立ちと

生まれながらに裕福な人と貧しい人がいる。格差や不公平はなくならない。そしてどんな人にも欲がある。こうしたどうしようもない人間の性を哀しいくらい美しい恋愛物語風に仕立てられている。この作品が『やりなおし世界文学』で取り上げられた理由がわかった気がした。

主人公の愚かさをただ馬鹿者と責める気になれない。誰にでもマイケルのような狂気を持ち合わせている気がするからだ。実際に発動するかしないかは、ちょっとした違いのように思う。母親と友人サントニックスは心配し、見守るしかできなかった。そういう存在は誰にでもいるのかもしれない。それだけが救いか。

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