東西ミステリ―第五位ランクイン作品

個人的にも好きな作品ベスト10に入る。1986年「東西ミステリーベスト100」以降に出版された最高位の作品。はじめて読んだときは衝撃的だった。戸籍を乗っ取るやり口は、ずっと昔からあるんだろうが、借金で追い詰められていく人間の姿が生々しく、他人事に思えないコワさがある。

刑事である本間俊介の遠縁である青年、栗坂和也の婚約者、関根彰子が姿を消したところから始まる。彰子の行方を捜すうち、和也の婚約者は関根彰子でないことが判明する。壮絶な人生から必死で逃れようと手段を選ばない姿が周囲の人々の証言や事実から浮かび上がってくるのだが、ヒロインは最後まで姿を現さない。

その表現があっぱれ。いまだこの作品を越える作品にはお目にかかれない。

ミステリーは、もはやトリックもストーリーも出尽くしたと言われて久しい。物語は所詮いくつかのパターンの応用とも言われる。それだけにどんなふうに物語を見せ、どんなふうに読ませるかといった技術やくふうが求められるのもうなずける。それを存分に楽しめる作品だと思う。

amazon